香が


「何しんみりしてるの~?」


って私の顔を覗いてくる。




気付かれちゃいけない。






―――この、心の叫びを。






気付いちゃいけない。






―――この、心の痛みに。






笑顔で話し掛けてくる香の声に耳を澄ませながらもう一度、ゆっくりと目を閉じる。



何も見えないように。



何も気付かないように。




「ケーキはやっぱりブシュドノエルでしょ~。」



「はぁ?あんた、結構乙女なのね。」



「どっからどう見ても頭から足の爪先まで乙女じゃん。」



「意味分かんないわ。」





二人の声がユラユラと聞こえる中、私は静かに自分の気持ちに





蓋をした。






私は高校を卒業したらこの町を出ていくから。



余計な気持ちはいらない。





「稚春、座って寝てんじゃないわよ。あんたはどう思う?」




実の声を合図に目を開ける。




「ケーキは何でもぃぃんじゃないかな。」



「じゃあ、ブシュドノエルでぃぃじゃ~ん。」



「テキトーね。」