「…お前、わざとじゃねぇよな?」
「何が…?」
稚春が何の事か分からないと言いたげな顔をして首を傾げる。
あー、コイツこれを計算でやってねぇなんて小悪魔通り越して悪魔だ。
「何でもねぇよ。それより、稚春…。一つ聞きてぇ事があんだけど。」
「な、何?」
頭をワシワシと掻いてから顔を引き締める。
真剣な雰囲気に、稚春は声を少し震わせた。
「……そのキスマーク、誰に付けられた?」
ひんやりとした廊下の中、俺の声が響く。
目の前の稚春は俺から目を背けて首を横に振った。
そんな稚春の様子を見て、さっきまで高鳴っていた胸が今度はズキズキと痛みだす。
「…言えねぇ事なのかよ。」
一向に口を開かず、俯いたままの稚春に何故か苛立ちを覚えた。
俺の声が廊下に響くたびに稚春の肩が小さく揺れる。
…何に怯えてんだよ、お前は。
フルフルと体を震わせる稚春を、この腕の中に閉じ込めて守ってあげてぇ。
その、ちいせぇ体にお前は何を溜め込んでる?
その、一見強そうで人一倍弱くて脆い心に何を抱えてんだよ。

