「騙されたね。」
「…こいつっ!!」
マジで腹黒い!
途端に近くに置いてあったティッシュケースを掴んで棗に投げつけようとする。だけど
「おい妃菜、コーヒー淹れてこい。」
耳にするりと入ってきた言葉にその手を止めた。
「…あ、うん分かった!ちょっと待ってて。」
テーブルに逆さにして置いてあるマグカップを取ってもう用意してあるコーヒーをそれに注ぐ。
その間、妙に視線が刺さるな、と違和感を感じながら角砂糖を一つ、加えた。
――――ぽちゃん。
そこで、刺さるような視線が私に向けられている理由に気が付いて「あ。」小さく声を漏らした。
ヤバい。
今さっき隼人、何て言った?
『おい妃菜、コーヒー淹れてこい。』
私の名前、呼んでない。
カタカタ。マグカップとコーヒーの入ったガラスの入れ物がぶつかり合って小刻みな音をたてる。
それは私の手が震えているからで。
皆の視線が容赦なく刺さってくる。私の行動を見てる皆の視線が、痛い。
カタカタ。
まだ音をたてるそれ。
それを目にしながら小さく、息を吐いた。負けるな、稚春。この状況で、へまするな。
ゆっくりとガラスの入れ物をテーブルの上に置いてもう一度、息を吐いた。だけれどさっきよりかは深く、長く。
きっとバレた。私が何度か"妃菜"と呼ばれていたことはきっともう、バレた。
私が否定しなかった。いつも通りに振る舞った。それは呼ばれ慣れている証拠。
それをここに居る全員が、知ってしまった。

