赤い狼 四






「隼人…。」




聞こえるか聞こえないかの声で隼人の名前を呼んでみる。



すると、




「ん?なんだ、稚春?」




優しい声で名前を呼ばれて胸がキュウと締め付けられた。




今だけなら、いいだろうか。




そう思って隼人の首に自分の腕をまわす。



隼人にしがみつくような体勢になった私によって隼人の体がビクリと揺れた。





「稚春…。」



「な、に……。」




耳元で名前を囁かれて顔を上げると予想していたよりも顔が近くて目を大きく見開く。



ち、近いっ。自分がしがみついたんだから仕方ないかもだけど近いっ!




今更になって恥ずかしくなってきて顔を反らす。だけど、それはできなかった。




隼人の手が私の顎に添えられたから。





「稚春…。」





隼人の吐息混じりの声が私を呼ぶ。


その声が色っぽくて思わず身震いした。




「は、隼人っ。」




離れて。そう強く念じながら放った言葉と同時に首にまわしていた手を退ける。



すると、顎を支えていないもう片方の手でぐっと腰を強い力で引かれた。




「…あっ、」




しまった。そう言いそうになって口を閉じる。



しまったって言ったら機嫌悪くなりそうだから。せっかく機嫌がいいのに台無しにすることはしたくない。