隼人が「なに泣いてんだ。」と眉を心配そうに歪めながら私の目尻に溜まった涙を親指で拭う。
もう、隼人の行動の一つ一つが嬉しすぎて仕方がない。
でもこれは私自身に対してじゃなくて仮の彼女に対して。
隼人が欲しているのは妃菜ちゃんで。私は妃菜ちゃんじゃない。
自惚れちゃ駄目だって分かってるけど止められない。隼人が私に優しく接してくれる限り。
だから、突き放してくれればいっそのこと楽なのに。
「…今日のお前の髪、いい匂いする。」
隼人は、突き放してはくれない。
再びギュッと私を抱きしめて、するすると私の髪の毛を撫でる隼人に私の体はカチカチだ。
隼人の胸板が頬に当たって顔が熱くなる。隼人の声に胸が苦しくなる。
なんで、そんな優しい声で喋るのだろう。
期待しちゃうじゃないか。何で。
一生懸命考えてみたけれどぐるぐると回る頭とは反対に、馬鹿な私の心は簡単に騙されてしまう。隼人は妃菜ちゃんが好きなんだと頭では分かっているのに心がそれを否定する。
どうすればいいのか、なんて分からない。私は、この胸に思い切り抱きついていいのだろうか。

