「分かんねぇ。」





初めて低い声に、戸惑いが感じられる声を隼人が溢した。





「そうなのか?」



「……あぁ。」



「だからムカつくし、行方を探したりできるのか。」



「………。」





嫌みを少しだけ含んだ言葉に隼人が眉を中央に寄せる。




そういう事には敏感らしい。





「妃菜の"それ"に関しては悪かった。変な細工して芝居したのはさすがに悪かったと思ってる。」




横目で机に置かれた黒い封筒を見て眉を下げる隼人。



その眉毛に掛かっている髪の毛は完全に乾いた。





「あの演技は俺に、隼人の心には妃菜が好きっていう気持ちがないって事を伝えるためにやったのか?


それとも、それを誰にも知られず持っておきたかったから?」




最後まで吸った煙草を灰皿に押し付ける。



あぁ。今日は煙草の減りが早いな。





「どっちも、だな。」



「…そうなんだ。じゃあさ、妃菜の事が好きなんじゃない?」



「それが、分かんねぇんだよ。」



「何が?妃菜からの手紙を捨てたくなくて持っておきたいからああいう事をしたんだろ?


それって妃菜の事を特別に思ってっからだろ。」