赤い狼 四







チクタクチクタク。




秒を刻む音が聞こえる。




部屋の空気が、音に振動する。




チクタクチクタク。チクタクチクタクチクタクチク―――――「おい。」





秒針とは違う低い音が加わる。




ゆっくりとその音のもとに神経を向かわせれば、ざわり。



胸が騒ぎ始めた。




「それ、離せ。」




ゆるりとした口調で放たれたその言葉には有無を言わせない何かが込められている。




「棗。」




それでも反応を見せない俺の名を力強く呼んだ声の主は、俺の手の中の原型がなくなりつつある"それ"を奪い取った。




そこでやっと固めていた体を解放して風呂から上がってきただろう隼人に体ごと向けると、じっと見てくる漆黒の瞳。




その瞳に見つめられるとその瞳に自分がどんどん吸い込まれるような気がして、思わず目を逸らす。




「何で…"それ"がここにあんだよ。」



「………。」




俺の情けない声が自分の中で響く。



その声は隼人の今の想いに気付いたからか、はたまた隼人が俺を騙した事への怒りからかは分からない。




だけど、これだけは言える。