「こ…れ。」
妙に静かな部屋に聞き慣れた声が広がる。
黒のズボンをソファーに置いて、代わりに床に落ちた"それ"を拾おうと手を伸ばした。
床に伸ばした手は情けなく震えている。
それをもう片方の手で押さえて拾って―――――「マジ…か。」自分の声が口から小さく漏れた。
"それ"は少し前にも一度、見たことがある。
自分の存在を示すかのような嫌でも目に付く、黒々とした色。
俺の手の中にある"それ"はあの日触ったものの感触と一緒だ。
だから、これは存在していないはず。
あの日、ちゃんと燃やして捨てたのを俺のこの目で見たはずだけど―――――。
「………。」
待てよ。俺があの時見たものは本当にあの手紙だったのか?
ぴたり。
考えるのを止めて過去の記憶を辿る。
あの時、俺は隼人と一緒にいつもの部屋に居た。
その日は確か、俺と隼人以外は独自の用事があったりとかで部屋には居なかった。
だから、あの手紙がこの世から完全になくなったのは俺と隼人しか見ていない。
いや。完全になくなったと思われる光景を見たのは、だな。あの時燃やしたはずのものは今、俺の手にあるんだから。

