そして、そっと唇を離す。




短い口づけだったけど、長い間しているような気分になった。




「ち…は…?」



『ねぇ、隼人。聞いてる?』




携帯の向こう側から"妃菜ちゃん"だと思われる声が聞こえてきた。


綺麗な、透き通った声。




「あ、あぁ。聞いてる。」




隼人が私を揺れた瞳で見てくる。


私はそれをしっかりと見つめて、ニコリと笑って隼人から離れた。




その間、隼人が何かを言いたげな表情を見せていたけれどそれには触れずにドアへと向かう。


今日はもう帰ろう。



鞄を持って、ドアを開けようとして




「――稚春。」




動きを止めた。



ゆっくりと後ろに振り返る。すると、隼人が私の左手首を掴んでいた。


その光景を見て、少しだけ顔が綻ぶ。



隼人のその行動が何を表しているのか分からないけれど、引き留めてくれるのは嬉しいかな。



現金な私はそんな事を思いながら。



やんわりと、私の手首を握っている隼人の手をほどいた。




「稚春っ、」




隼人が切なげに私の名前を呼ぶ。


名前を呼ばれる度に胸が締め付けられるかのように苦しくなる。