―……ズキン
彼女いたんだ。
あれだけかっこよければ当たり前だよね。
心の中に刺さった棘がメリメリと奥に入ってくる。
さっき言われた言葉よりも…ずっと。
太一と目が一瞬合ったけどスッとすぐに逸らされ、何事もなかったかのように下りていった。
ただ階段の中心でボーッと立ち尽くした。
「あっいたいた。仁香子あんた何して…ってどうしたの?!なんで泣いてんの?!」
「えっ…」
楓に言われて自分の頬を触れば涙が伝っていたのが分かった。
「あれ?なんで泣いてんの?自分でも気づかなかったよ」
にへらと笑った後にどんどん溢れ出す涙は泊まらなかった。

