「教授!このローストビーフ美味しいですよ!?食べないんですかっ?」
中村さんと二人でがっつく私をよそに
教授は足と腕を組み、車窓から流れゆく景色を考え深げに眺めるだけ
ーー教授…、何か様子が変だな
いつも変なのは日常茶判事なのだが
今日は一段と様子がおかしい
表情が堅いというか、どこか緊張しているような…
「その肉は、おいしい水、四季折々の豊かな自然の中で、一頭一頭丹念に匠の技でじっくり育て上げる京都の和牛。その中から品質を厳選したものが「伝統と文化の味“京都肉”」。その繊細な味わいと上品な舌ざわりは、まさに美味の贅を極めた逸品です」
ペラペラと京都のブランド牛の説明を無表情で話す教授
「と、いうわけで私は腐る程食べていたので結構です」
その言葉が少し嫌味っぽく聞こえるのは
私が貧乏でローストビーフという未だ嘗てないすんばらしい料理を口にしたことがなかったからだろうか
