フーッと白い煙を吐いたのは教授の実の母親、水無月神流(みなづきかんな)


還暦を過ぎても

地元京都で先祖代々から受け継がれてきた水無月流舞踊の師範として、現在も第一線で活躍している



「煙管の方が味に深みがあって美味しいんよ」



フフフと笑って話す神流




「愁さんは相変わらず研究室で怪しい研究してますの?」

「怪しくないですよ。ちゃん学会や論文で発表してます」

「そういうとこ、高須さんにそっくりやわ~。変なとこ似ちゃったのね」



神流のため息混じりの言葉に教授が苦笑いで返す


高須とは教授の父親らしい


「櫻子さんはえぇ娘やから、絶対気に入ると思うわ」


互いに東京の景色を見下ろしながら、思いに耽る



「付き合うようになったらこっちに戻ってきたらどうやろか?研究やったら京都でも出来るんちゃうの?」



教授は黙って神流の言葉に耳を傾けながら

白い煙を口から吐いた



しかしその表情は堅い


「頼れるんは愁さんだけやねん。母さんの期待、裏切らんといてな?」



神流はそう言ってきざみ煙草を吸い殻に捨てて
喫煙スペースから去っていく


「……」



教授は難しい顔をして

煙草を吸い殻に捻り消した