声もさっきより沈んでいる。
俺は思わず灯の顔を覗き込んだ。
「具合でも悪いのか?」
俺がそう尋ねると、灯ははぁーっと大きなため息をつく。
「……相変わらずの鈍感」
「灯?何ぼそぼそ言ってるんだ?」
小さすぎて何を言っているか聞き取れない。
俺がそう言うと、灯はキッと俺を睨み、舌を出した。
「なんでもないよっ!」
「ならいいけどさ」
最近灯はどこかおかしい。
俺にかまってきたと思えば、こうやって俺にきつく当たる。
怒られるようなことをした覚えなんてないぞ?
そう思っていると、灯ははぁっと息を吐く。
「で、東雲さんと付き合うの?」
「…さぁ?嫌いって言われて、キスされて…また明日って言われただけだし」
「…明日も会うつもりなんだ」
心配そうな声
俺は苦笑した。
「別にあの子は噂通りの子じゃない」
あの子は…何処か俺に似ている。
雰囲気とかじゃない。
匂いが…似ているんだ。
悲しみを背負っている匂い。
だから…あの子といれば…少しはこの悲しみも薄れる気がする。
温かい家庭にいても癒されないこの心。
彼女と関わればきっと…。
最初はただ、それだけの気持ちだった。
彼女に「付き合わない?」というのも結局は自分の悲しみを軽くするため。
彼女はそれに気がついたんだろう。
だから…「…先輩のこと、嫌いです」と言ったんだろう。
だけど彼女は「また明日」と言った。
彼女も俺を利用しようとしている。
利用するなら、俺も彼女を利用する。
最初はただそれだけだった。
まさか…こんな気持ちになるなんて…
この頃は全く予想していなかったんだ。
きっと…彼女も。

