「な、なんでそんなこと聞いたの?」



「…ん?嫌いって言われたのにキスされたから」



正直に言うと、灯は持っていたコップを机に落とす。
淹れたばっかりのお茶が零れ、机に広がった。
俺はぎょっとして、急いでタオルで机を拭く。



「何してるんだよ」



「ご、ごめん…驚いちゃって…」



驚きすぎだろと心の中で突っ込む。
動揺しすぎて心配してしまうくらいだった。



「そ、その子って…誰なの?」



「東雲 凌花ってすっごい可愛い子」



「えっ!?」



灯はまたコップを落としそうになるが、今度はキャッチする。
俺はほっとした。



「驚きすぎ。コップ落とし過ぎ」



「だ、だって!!那智がっ!」



「とりあえず、落ち着け」



落ち着いてくれないと話ができない。
まだ話すことはいっぱいある。



灯はふぅーっと深く深呼吸をする。
「もう大丈夫」と笑みを見せた。



「東雲 凌花って子、有名だよ?モデルみたいに綺麗な子だし…無口…物静かっていうか…そういうところが男子には人気みたい」



「有名って…俺知らないけど?」



3年生の事まで有名になっているなんて知らない。
実際、今日初めて会ったんだから。



「那智は学校来てないも同然だからね」



と、灯はくすくすと笑う。
悪かったなと俺は心の中で呟いた。



「彼女は東雲財閥のご令嬢さんなんだけど…誰とも打ち解けようとしないみたい。一匹狼のようで格好良いって男子には評判いいみたいだけど、女子には妬まれているみたい」



「お嬢さま…か」



確かに雰囲気がそんな感じがあった。
凛としていて…全く動じなかったし。



「でも色々とあるみたい。詳しくは知らないけどね」



「……そっか」



「東雲さんと…キスしたんだ」



急に灯は棘のある言い方をする。
気のせいだろうか?
灯の視線が痛い。