潮の香りを身につけ、家に帰ると、家の前に女の子の影があった。
あの後ろ姿は…
俺は足を止める。
女の子…灯はすっと振りかえる。
少し離れたところにいるはずなのに、灯の目が赤くなっていることに気がついた。
「…あかり」
「那智…今、ちょっといいかな?」
「あ、あぁ…」
少し声が震える。
俺よりも灯のほうが落ち着いていた。
「家に上がる…」
「此処でいいよ」
急いで家の鍵を開けようとしていた手が止まる。
灯は俺の制服の裾を掴んでいた。
「…すぐ終わるから」
「あ…うん…」
灯といて、何故か緊張している自分がいる。
いつもより、灯が小さく見えて…
なんでか可愛かった。
「で…何か話?」
「…うん。あたしの告白のこと…」
ドキッと俺の胸が高鳴る。
灯の唇が動くのを、俺は静かに待った。
「あの告白…忘れてくれないかな?」
「…え?」
一瞬、なにを言われたか分からなかった。
俺は思わず振り返る。
灯の顔を見ると、何故か微笑んでいた。
「…何?」
あまりにも自然すぎて…
俺を言葉を失う。

