優美に引っ張られて着いたのは、何故か海だった。
まだ冷たい風が吹く海の波はゆっくりと足元に近づく。
「…で、何で海?」
「叫びたいのかなっと思ったから」
優美は俺にふふっと笑いかける。
そんなに俺って分かりやすいのだろうか?
俺はただ、分からなくなっただけだ。
自分の気持ちははっきりしているはずなのに…
それから目を背けている。
誰も傷つけたくないと…前に進めずにいる。
その間にどんどん灯と話すのが気まずくなって…
凌花に話す勇気が出なくて…
結局どうしたらいいか分からなくなっている。
「どちらも傷つけない…そんな想いってあるのか?」
ぽそりと呟く。
『そんなのあるわけないじゃない』と、優美は溜め息をついた。
「あったら誰も傷つかない。誰も傷つけないなんて、甘い考えは捨てたほうがいいわよ?少なくても…灯ちゃんは傷つく覚悟をしているわ。貴方は…そんな灯ちゃんの覚悟を踏みにじるのね」
「どう言う意味…」
「まだ分からない?灯ちゃんは…貴方に振られると思ってるのよ」
その言葉を聞いた瞬間、ずしっと肩が重くなった気がした。
灯が…?嘘だろ…?
ただ優美の言葉に驚きを隠せないでいた。
優美はそんな俺にお構いなしに話し出す。
「昨日…雄大君と話してたのを聞いたの。『那智はあたしのこと、女の子として見てない』って。灯ちゃんが泣いていたのを見たのは初めてだったから…驚いたわ」
泣きそうな顔は見たことがある。
だけど…灯は決して泣かなかった。
…違う。
泣けなかったんだ。
俺が辛いのを知っていたから。
灯は俺の前で涙を見せようとしなかった。