この日は何故か灯がいつもよりくっついてきた。
凌花のところに行きたくても、灯が邪魔して行けなかった。
いつもと違う灯に俺は思わず、腕を掴んで誰もいない屋上に向かった。



「…どうしたの?」



「灯…今日、変じゃないか?」



きょとんと灯は俺を見て、首を傾げた。
身に覚えがないという感じだった。



「…いつもと一緒だと思うけど?」



「いや…いつもは俺のこと、あんまり口だしなかっただろ?なのに今日は邪魔してばかりだ」



いつもの灯ならこんなことしない。
「行ってきな」と俺の背中を押してくれる。
今日の灯はいつもと違っていた。



灯は肩を竦める。
ぼそっと「そんなに好きなのかなぁ」と呟いたのを俺は聞き逃さなかった。



「好きって…?」



「…気付いてないでしょ?だから、余計にムカつくの」



そう言って灯は俺をキッと睨んだ。
こんな灯は初めてだった。



「だから…あの子に『那智のこと、中途半端なら諦めて』って言ったのよ」



「なんでそんなこと…」



「…なんで?」



灯はあざ笑うかのようにクスッと笑う。
そして、はぁーっと息を吐いた。



「…好きだからに決まってるじゃん」



「…え?」



「言わないでおこうと思ったよ?だけど…傍にいても…気付いてくれなくて…仲直りした日だって…結局気付いてくれなかった。いつものことだから気にしなかったよ?でももう…限界なの」



「…あか…り」



灯が泣きそうな表情をしていた。
いつも、強い灯が。



そのことが俺の胸を締め付けていた。
強い灯を泣かせているのは俺だ。