居心地が悪い。
俺はぱたんと本を閉じた。



「君…良くここに来るの?」



彼女の事をちらりと見ながら尋ねる。
彼女は俺に目もくれず、こくりと頷く。



「俺、3年の橘 那智。君は?」



「…1年の東雲 凌花」



道理で見たことない子だなと思った。
彼女の目立つ容姿なら、噂になる。
3年は1年と校舎が違うから、噂になっても知らない時がある。



「本…好きなの?」



「…先輩のことよりは」



と、彼女は小さく呟くように言う。
まさかの発言に俺は苦笑した。



彼女は意外にもはっきり言う子らしい。
かざってなくて、良いと思った。



彼女の横顔は年下とは思えないくらい、大人びていた。
だけど、何処か悲しそうで…俺と似ている気がいた。



「なぁ…」



俺は頬杖をつき、彼女を見つめる。



「俺と付き合わない?」



言葉を発した瞬間、周りの音が一気に小さくなったように感じた。
彼女はふっと本から目線を外し、俺を見る。



「…先輩と?」



「そう。気が乗らない?」



さっきよりも一層顔を近づける。
唇が触れそうなほどの距離。
50センチの距離が一気に縮まった。



それでも彼女は照れる様子も、逃げる様子もない。
ただ真っ直ぐ俺を見ていた。



「…先輩のこと、嫌いです」



そう言って彼女は軽くキスをした。
時が止まった様に感じた一瞬



彼女はふっと微笑んだ。
それは花が綻んだような笑顔



「…また明日」



彼女はそう一言言い残すと、図書室から出て行ってしまった。
さっき読んでいた、一冊の本を机の上に残して…