傍にいるから気付かないこともある。
俺は灯が幼なじみだから優しくしてくれると思いこんでいた。
灯が何を抱えて俺と接していたのか、気付かなかった。



灯の心は悲鳴を上げていた。
必死に俺に気付いてほしいと頑張っていた。
だけど…俺は気付かなかった。



灯を怒らせた原因はやっぱり俺だ。
当たり前を壊したのは俺だ。



俺は自分勝手だと思う。
いつものように灯と過ごしたいなんて…。



「灯…俺…」



「…那智は気付いてくれた。鈍感でも…あたしの声に気付いてくれた。それだけで満足だよ」



灯は顔を上げ、にっこりとほほ笑む。



「だから…仲直りしよ?」



灯は手をスッと差し出す。
俺は戸惑いながらも、その手を握った。



「…あぁ」



灯が無理をしているのには気付いていた。
灯は無理をするところがあるから。
気丈に振る舞っているが、弱いところがある。



だけど…俺は何も言わなかった。
灯に無理をさせてまで、仲直りした。
灯の気持ちを大事にしたかった。



「那智…あたしのことは気にしないでね?東雲さんと仲良くしなよ?」



「でも…泣かせたと思う」



図書室から出る時、凌花は泣きそうな顔をしていた。
きっと傷つけた。
凌花には何にも話さなかったから。



灯はふっと優しく微笑む。
俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。



「傷つけたなら…謝ればいいんだよ。ちゃんと謝れば、許してくれると思うよ?」



「凄く傷つけた。凌花は…俺と同じように悲しみを背負ってるのに」



「…傷つけたと思うなら、すぐに謝りに行きな?」



灯は俺の背中をぽんっと押した。



「……ごめん」



謝ってばかりの俺に、灯は笑みを浮かべる。



「…もう。謝らなくていいって言ってるでしょ?ちゃんと東雲さんと話すんだよ?」



灯はいつも俺の背中を押してくれる。
些細なことでも心が揺れる俺を正しい道に引っ張ってくれる。



そんな灯に感謝していた。
同時に迷惑ばっかりかけられないと感じていた。



「灯…ありがとな」



「…幼なじみだからね」



と、灯はいつものようにニッと笑った。
その笑顔は、昔から親しみのある、あの笑顔だった。