「……何の用?」



突然現れた俺に灯は不信の目を向けていた。
いつも優しく接してくれる灯が俺にこんな目を向けるのは初めてだ。
俺は震える唇で言葉を紡ぐ。



「…謝ろうと思って」



それを聞き、灯ははぁーと溜め息をつく。
外に出て、玄関の扉をぱたんと閉めた。



「謝るって?那智はあたしに何したの?」



「…怒らせたから」



あの日から全然話してくれない。
目も合わせてくれない。
凄く怒らせているような気がした。



灯はふぅっと肩を竦める。
呆れた表情を俺に向けた。



「何であたしが怒っているのか…分からないのに謝るの?」



「俺は……灯といつものようにいたいんだよ」



笑っていたい。
楽しくいたい。



灯の笑顔は俺の心を癒すから。
『幼なじみ』として、いつものように過ごしていたい。
それが当たり前だったから。



だけど…灯を怒らせて…
いつもと違うのに戸惑って…



このままは嫌だと思った。
いつものように…当たり前に灯と過ごしたい。



「……あたしはその当たり前が嫌なの」



灯はぽつりと小さな声で呟く。
俺は「え?」と思わず聞き返した。
灯は真っ直ぐ俺を見つめる。



「当たり前でいたくない。あたしが怒ったのは…那智が…気付いてくれなかったからだよ」



「あか…り…?」



「ずっと傍にいるって言った。那智の味方だって…だけど…味方になれないこともあるんだよ」



灯の目が涙で潤む。



「ずっと気付いてほしかった。でも…ずっと傍にいても…気付いてくれなくて…」



「……ごめん」



灯が何を言いたいのか、分かってしまった。
俺にはやっぱり、謝るしかできない。
すると、灯は首を横に振った。



「…謝らないで。謝ってほしいんじゃないの。気付いてほしかった。ただそれだけなの」



「…鈍感でごめん」



「ホントだよ」



灯は俺の胸に頭を預けて、静かに泣いていた。
俺はそんな灯の頭を優しく撫でた。