図書室の秘め事*50㌢の距離*




「母さんはあれから家に帰ってこない。今じゃ月に1回しか帰ってこない」



父親も暫く帰ってこない。
俺は一人であの家で暮らしている。



少しでいい。
昔に戻りたい。
昔のように穏やかな日々に…。
いつも笑顔が溢れていた…あの頃に…。



俺の話を聞き終わった凌花はぽろぽろと涙を流していた。
ぎゅっと俺の手を握り、俺を見つめる。



「なんで…泣いてんだよ」



凌花は全く関係ない。
泣ける話をしていたわけでもない。
だけど凌花は静かに涙を流していた。



ぎゅっと俺の背中に手を回し、身体を密着させる。



「…凌花?」



「…泣いていいんですよ?」



「泣いていいって…」



「ずっと…辛かったのでしょう?」



ずっと辛かった?
俺には当たり前のことだった。



辛かったわけじゃない。
ただ…悲しかっただけ。



だけど…涙は出なかった。
我慢していたわけじゃない。
泣けなかっただけだ。



「先輩の心は悲鳴を上げていたんですね。でも…無理に自分の気持ちを閉じ込めていいことはないです」



「……凌花もだろ」



「…やっぱり、優しい。だけど…甘えていいんです、少しくらいは」



凌花は俺を隣からぎゅっと抱きしめる。
俺は凌花の胸に頭を埋めた。