今…何処にいるか分からない。
母親は毎月、家に必要なお金だけ置いていく。



「最後に話したのは…1ヵ月…くらい前だった」



灯の家から帰って来た時だった。
久しぶりに見た、母親の姿はあの頃とは違っていた。



『那智…これ、来月のお金ね』



ぼそっと呟くような小さな声
母親はお金を俺に手渡すと、家から去ろうとする。
俺はそんな母親の背中に声をかけた。



『…誰にお世話になってんの?』



『…私の古い友人よ』



『…父さんのこと、想ってんのに?』



母親が言っている『古い友人』とは男だと俺は気付いていた。
母親はぴたりと足を止め、振り返る。
母親はキッと俺を睨んでいた。



『智さんとは違うわ。彼はただの友人よ』



『…向こうはそう想ってないだろ?』



『だとしても…私は智さんだけ。智さんが私の全てなの』



知ってる。
だから…それでいいのかよって思う。



『俺ももう高校生なんだから、父さんとこに行けばいいだろ?』



ずっと母親が望んでいたことだ。
会いに行きたければ会いに行けばいい。
暮らしたければ暮らせばいい。



俺がそういうと、母親は悲しそうな表情を見せる。



『…那智は分かっていないのね』



ぼそっと小さくつぶやいた声は俺には届かなかった。
何を言ってるのかは聞き取れなかった。



『また…来るわ』



そう言い残し、母親は家から去って行った。