この日、結局俺は一回も授業を受けることはなかった。
放課後、誰もいない教室へに鞄を取りに行く。
教室へはいると、灯が呆れ顔で俺を見ていた。



「結局授業受けなかったね」



「…また説教する?」



俺がふっと笑うと、灯は首を横に振った。
俺の鞄を俺に向かって投げる。



鞄の中身は何にも入っていない。
教科書なんか入っていないので、凄く軽かった。



「那智の問題だから、なにも言わないよ。…今日、家に来る?」



「いや…今日はいい。お世話になりっぱなしだし」



俺がそう言うと、灯は悲しそうに微笑む。



「…気にしなくていいのに。あたしの両親も那智の事、心配してるから大丈夫だよ?いつでも…家に来ていいからね?」



「…あぁ、ありがとう」



そう言うと、灯は手を振り教室から出て行った。



俺の家は少し訳ありだ。
父親は数年前から海外を飛び回っている。
母親は夜遅くにしか帰ってこない。
家に帰ってこない日も多い。



母親がなにをしているのかは知らない。
中学に入学してから、顔を合わすことが少なくなった。
今では一か月に2回顔を見ればいいほうだ。



朝、晩両親のいない生活
それが当たり前になってきいた。



そんな俺に優しくしてくれているのが灯の両親
俺の両親とは大違いだ。
凄く優しくて、いつも俺の事を心配してくれている。



だからこそ、あまり迷惑はかけたくないと思ってしまう。



「まだ…夕方か」



今、家に帰っても何もすることはない。
このままどこかで時間を潰すかと考え、俺は鞄を持ち、教室を出た。