俺だけだった。
ぼーっと窓のほうを眺めていたのは。



「授業、終わったのか」



「…呆れた。考えごと?」



「…あぁ」



授業の間、ずっと考えていた。
だけどまだ、答えは出ていない。



「もしかして…あの子のこと?」



さすが、灯だった。
俺の心が読めるんじゃないかと思うくらい。



「那智の心のままに動けばいいんだよ」



「…傷つけても…傷ついてもか?」



きっと…俺はそれが怖いんだ。
傷つく怖さを知っているから。



俺がそう尋ねると、灯はふっと微笑む。
だけど、真っ直ぐ俺を見て言った。



「…誰も傷つけないなんて無理なんだよ。今先延ばしにしても…傷つくのは変わらない。どちらかが…傷つくんだよ?」



「俺は…傷ついても…」



小さな声でぼそっと呟く。
だけど、灯ははぁーっと溜め息をついた。



「那智は十分傷ついてる。それ以上傷ついたら…誰も信じられなくなるよ?あたしは…那智のこと、知ってる。傷ついてもいいなんて嘘。ただの強がりなんだから。那智…気持ちに正直になったほうがいいよ」



そう言って灯は俺から離れていく。
そんなこと…分かってる。
分かってるよ、灯。



だけど、俺は憶病なんだ。
強がらないと不安で仕方がない。
傷つきたくない。傷つけたくない。



でも…そんな想いよりも…
自分の想いを優先してほしいと灯は願っている。



俺は…
俺の気持ちは…



俺はすっと目を閉じ、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
教室を出ようとした俺を見て、雄大は不思議そうに声をかける。



「那智、何処に行くんだ?もうすぐ授業だぞ?」



「次の授業には戻る」



俺はそう言い残し、屋上に向かった。
『彼女』がいる、屋上に。