「小村に捕まっちゃったな」
「楽しそうだな、雄大」
「小村、最近彼氏と別れたらしいからな~」
「…俺に付き合えと?」
思わず眉をひそめる。
すると、雄大はふっと笑った。
「そういうことなんじゃないか?」
「…勘弁してくれ」
俺ははぁーっと深いため息をつく。
久しぶりに教室に入ったと思えば、これか。
雄大はぽんっと肩を叩いた。
「彼女いるなら、早めに諦めさせたほうがいいぞ」
そう言って俺から離れていく。
見ると、教室に望さんがぴしっとしたスーツを着て、入ってきた。
教室に入ってきた望さんと目が合う。
俺を見た望さんは嬉しそうに微笑んでいた。
俺は目を逸らし、さっき雄大に言われた言葉を思い出す。
『彼女いるなら、早めに諦めさせたほうがいいぞ』
彼女は…いない。
凌花とは…何にもない。
だけど…凌花は俺の隣にいることを望んでいる。
俺はどうしたらいいんだろう。
「…ち。…那智っ!」
耳元で叫ばれて、思わずびくっとなる。
横目で誰か確認すると、むすっとした顔の灯が俺の顔を覗き込んでいた。
「…灯か」
「…灯か、じゃないよっ!折角授業受けてるのに上の空でさ~」
「…はっ?」
灯にいわれて、周りを見渡した。
クラスの皆はわいわいと楽しそうに話している。

