「……機嫌悪いね」



放課後、屋上に来た灯は俺の顔を見て、そう言った。
俺は寝転んだまま、灯の顔を目上げる。



「そんなこと言うために来たのか?」



「そんなわけないでしょ?望先生が呼んでる」



「…担任が?」



俺は眉をひそめた。
森月 望(もりづき のぞみ)、俺と灯のクラスの担任をしている。
俺が授業をさぼっていても、家の事情を知っているせいか、それともただ単に呆れているのか…何も注意しようとしなかった。



ただ、「授業には参加して」と念を押すように言うだけ。
それが無駄だと分かっていても、俺が授業に出てくれることを信じているのだろう。



放課後呼び出すようなことはしなかった。
珍しいなと、俺は身体を起こす。



「何か言ってたのか?」



「とりあえず教室に来てって。もう皆帰ったから、教室に行っても大丈夫だよ」



そう言って灯はポンッと俺の肩を叩く。
まるで俺の背中を押すように。



「…分かったよ」



俺は肩を竦め、立ち上がった。



「…先に帰っていていいぞ?」



「…待ってるよ。終わったら電話して」



そう言って、彼女はひらひらと手を振る。
俺は気が乗らないまま、担任が待つ教室に向かった。



教室は夕日に照らされて、赤く染まっていた。
そんな教壇で頬杖をついて、外を眺めている眼鏡の女性



俺の担任、森月 望だった。
俺はゆっくりと教室に入る。



俺の足音に気付いたのか、担任は俺のほうにゆっくりと顔を向ける。
俺の姿を見て、へらっとほほ笑んだ。



「…こんにちは。来てたなら教室にいてほしかったな」



教師とは思えないほど、のんびりとした口調
俺も最初は教師だと思わず、疑ってしまったほどだ。



「話があるんだろ?」



「ここ座って」



と、担任は教団の向かいの机を指差す。
俺は首を横に振った。