「…誰も信用できなくて…人を避けて…それが当たり前だったのに…先輩に出会って…少しだけ変われた気がしたんです」



「…俺が変えたわけじゃない」



俺がそういうと、凌花は首を横に振った。
「…先輩は気付いてないだけなんです」と静かに微笑む。



「…先輩は…凄く優しくて…いい人だとあたしは思います」



「そうみせてるだけかもよ?」



誰も信用していないと言っている彼女が簡単に信じるわけない。
俺は自嘲気味に微笑んだ。
すると、凌花は首をぶんぶんと横に振った。



「…分かるんです」



その微笑みに俺は何も言えなくなった。
人嫌いの彼女が俺の事を優しいと言ってくれた。
いい人だと…嫌いじゃないと…



少しだけ…耳が熱くなった気がした。
俺は照れ隠しのように、頬を掻く。



「俺じゃなくてもいいんじゃないか?」



「…あたしは先輩の隣にいたいです。悲しみを癒してほしいとは思いません。ただ…その傍らにいさせてください」



頼み込むような真っ直ぐな瞳に俺は目が離せなかった。
凌花は俺の服の裾をぎゅっと握る。
俺はそんな凌花から逃げることができなかった。



どうやら…俺は凌花の事が好きになったみたいだ。
利用するつもりだった子を…こんなにも好きになっていた。



「…俺の傍にいたっていいことないよ?」



と、俺は彼女を突き放すように言う。
これが精いっぱいだった。
そんな俺の言葉に、彼女は首を横に振った。



「…それはあたしが決めることです」



そう言って彼女は俺の肩に頭を置く。
肩に熱が巡る。



「…本気にならねぇ」



と、俺は彼女に聞こえないように呟く。



この想いが本物でも、これ以上本気になってはだめだ。
絶対裏切られるから…。



信じない。
信じたくない。
お願いだから、これ以上近づかないでほしい。



そう思っているのに…彼女のそばがこんなにも温かい。
居心地が良すぎて…離れられなくなりそうだった。



本気にならない。
そればかり思っていて…
彼女の存在が、俺の思いを溶かしていった。