この言葉を交わさない時間が何故か心地よかった。
二人の隙間に風が通り抜ける。
風が少し気持ちよくて心地よかった。
「…先輩はあたしのこと、嫌いですか?」
彼女は上目遣いで俺を見る。
俺の心臓がドクンッと鳴った。
「…嫌いだから…利用しようとしていたんですか?」
「それは違う」
俺は思わず、彼女の手を握った。
彼女は心配そうに俺を見ていた。
「…何が違うんですか?」
「最初は…ただ利用しようと思ってた。だけど…嫌いとかそんなんじゃなくて…」
その先が続かない。
声が急に出なくなる。
いや…だせなくなった。
急に自分の気持ちが分からなくなった。
凌花の事は…嫌いじゃない。
だけど…
「…先輩?」
凌花は不思議そうに俺の顔を覗き込む。
俺は凌花の顔が見れなかった。
「…ごめん」
ただ謝ることしかできなかった。
俺の中に芽生えた気持ちを伝えることができなかった。
凌花のことは嫌いじゃない。
っていうことは好きということなのだろうか?
好意…というわけじゃない。
だからといって、友達のような好きとも違う。
なんだか不思議な気持ちだった。
「…あたしは嫌いじゃありませんよ、先輩の事」
凌花はぽそりと小さくつぶやく。
俺は「え?」と驚いて、凌花の顔を見た。
凌花は俺を見て、微笑んだ。
「…あたしは人と関わることが苦手で…あの時、この学校の人とはじめて話したんです」
凌花はゆっくりと話し出す。
まるで自分の過去を打ち明けるかのように。

