俺と凌花が付き合い始めたという噂は一気に広がった。
朝、学校に来ると、同じクラスの見覚えのある女の子が俺の前に近寄ってくる。



「橘君…1年の東雲さんと付き合っているってホント?」



今にも泣きそうな目で俺を見上げる。
その声は震えていた。



「…ホントだよ」



俺がそう言うと、女の子は「…そう」と消えそうな声で言った。
ぽろぽろと流れる女の子に俺はどう言えばいいかわからなかった。



「…ごめん」



「…橘君が謝ること…ないよ…」



彼女はそう言っていたが、涙が止まることはなかった。
俺は思わず女の子の頭を撫でた。



「……好きになってくれてありがとな」



そう言って俺は彼女の隣を通り過ぎる。
女の子は最後に俺に向かって「ありがとう」と笑顔で微笑んだ。



その一部始終を見ていた灯ははぁーっと溜め息をつく。
俺の腹にグーパンチをいれる。



「那智、優しくしすぎ。あんなんじゃ、諦められないよ?」



「…じゃ、他にどういえばよかったんだよ」



俺はなにも思わず、あの子の横を通り過ぎるなんてできなかった。
冷たくしようとしても…悲しみを知っているから…そんなこと出来ない。



それ言うと、灯は肩を竦める。



「…まっ、那智だもんね~。今日こそサボったほうがいいよ。教室も騒いでるし」



「……じゃ、サボってる」



灯は気を利かせてくれたんだろう。
俺はあまり、騒がしいのが好きではなかった。



同情の目
通り過ぎる度聞こえてくるひそひそ声
近所の人たちみたいで…嫌なんだ。



小さいころから苦手だ。
未だに人の多いところも好きじゃない。
きっと気付かないうちに人の目を気にしているんだと思う。