呆然とその子たちを見ていた私を、美奈の声が引き戻した。

「で、どういう事なの? 餌付けって」
今の子達に驚くでもなく、楽譜をぺらぺらと捲っている美奈さま!
女教師か女医にみえます!


じゃ、なくて。


脱線しそうになった思考を、何とか戻す。


「あー、中学の頃ね。音楽室でピアノを弾いてた梶原に、取引でお菓子あげたことがあるんだよね。多分、それかなぁ」
「取引?」
「うん、あんまりにも綺麗なピアノだったから、他の部活に入ってた梶原に合唱部の伴奏をお願いしたんだよね。学内発表会の。」


そうそう、そうだった。

中学でも合唱部だった私は、たまたま音楽室でピアノを弾く梶原を見かけて勢いで頼み込んでしまったのだ。
たまたま伴奏をする予定の子が腕をけがしちゃって、このままいくとエレクトーンをかじったくらいしか弾けない私にその役目が回ってきそうだったから。

「いやー、切実でしたよ。で、頼み込んでも何にも反応してくれないから、友チョコ用のお菓子を押し付けて押し切ったってわけ」
「友チョコって……、バレンタインの?」

「うん。学内発表会って、三年生を送る会的な意味合いがあってさ。三月の初めにやるんだよね。んで、梶原のピアノを聞いたのがちょうどバレンタインで、取引に使えるものがそれしかなかった!」


あははー、と笑いながら首元をさすれば、寝ていたはずの梶原がむくりと上体を起こした。