好き。きみが、すき。

室内では、またか、と笑いながらベランダに向けて歩いてくる人、恥ずかしそうに窓際による人それぞれ。
今年はまだやってなかったから、一年生は困惑気味だ。
ベランダで歌うのは、今は卒業してしまった先輩達がよくやっていた。
強制はしない、気持ちよく歌いたいだけの行動。


気持ちよく声を出せば、一瞬驚いたように振り仰ぐ校庭にいる生徒。
ここからじゃよく見えないけれど、苦笑していたり面白そうに見ていたり。
昨年は、当たり前だった合唱部の練習風景。


梶原が選んだ曲は、空に焦がれる歌。
空を飛ぶための、翼を望む歌。
誰でも知ってる、中学で歌う合唱曲。

発声・パート練の後だから、のびやかに出る歌声。



最初は恥ずかしそうにしていた一年も、途中から気にならなくなったのか窓枠に手を置いて歌ってる。
いつの間にか集まっていた部員全員の合唱になって、歌い終えた後、校庭にいる人達からの拍手に歌い終えた余韻に、テンションが否が応でも高まった。


「よっし、このまま全体練習に突入しようっ」

ベランダから声を掛ければ、頷きながら室内に戻っていく部員たち。
「最初恥ずかしかったけど、楽しかったです!」


そう嬉しそうに笑ってくれる上代さんに、振り向いた時だった。
視界に、校庭からこっちを見ている生徒の姿が目に入った。


その姿に、ドクリと鼓動が大きくなった。
ジャージを着てボールを持ったまま見上げているその姿は、遠目でもよくわかる。



……山下