「おはよー」

いつも通り教室に入って声を掛ければ、あちこちから挨拶が返ってくる。
それに答えながら自分の机に辿り着けば、隣の席の梶原が伏せていた顔を少し上げて私を見た。

「……朝から元気だよね、三島って」
「褒め言葉として受け取ろう、梶原」

眠そうにあくびをする梶原は、可愛い顔したクラスメイト。
高三の兄を見ていれば髭も生えるしすね毛も生えるだろう年齢だけど、結構……いやほとんど男らしさを感じさせない中性的な男子高生。
友達曰く、母性本能を刺激される、らしい。
高校二年で、母性も何もないでしょとか思うけど。


あぁ、でも。


ゆっくりと上体を起こした梶原の髪がひょこりとはねているのを見つけて、思わずくすりと笑ってしまった。
私にも母性というものがあるらしい、と内心笑いながらその髪に手を伸ばす。
押さえる様にして寝癖を撫でれば、柔らかい髪の毛が指と指の間をさらりと零れた。


……可愛いわ~


思わずニヤケそうになる頬を何とか引き締めながら、頭を撫でる様に寝癖を直してみる。
当の梶原は、目を細めて頬杖をついたまま。


猫みたい。