美味しいプライド

随分と長い文章を読んでいるうちに、次第に酔いが覚めてきた。
ビール1杯で2時間はいい気分でいられる由美には珍しいことだ。
よく考えたら私は、陽平の事もかなえのことも、ロクに知らないんだなぁ。とボンヤリと思った。
かなえが陽平に振られるなんて思いもしなかった。
由美にはなんとなく分かる、陽平は、かなえが嫌いなわけでも和美を振り切れなかったわけでも無くて、ただ単にかなえが「怖い」のだ。
女である由美には、お嬢様キャラのかなえが恋人と2人になると、どれほどの色気を発揮するのかはわからないけれど、かなえが陽平程度の若くて素朴な男が尻込みするだけの濃い情念を持った、業の深い女だって事は文章を読んでいてなんとなく分かった。




陽平は、かなえにハマッて傷つくのが怖いのだ。自意識過剰で自分大好きなかなえにがんじがらめにされて、今まで大切にしてきた小さなもの達をひとつひとつ、優雅でセクシーな動作で踏み潰されていくのが、恐ろしいんだと思う。
あいつは根っからローカルな海の男だ。自分の愛する地元をコテンパンにけなされて、さぞかし男のプライドとやらが傷ついたんだろう。
大事なものをさんざん罵られても、いざかなえの声を聞くと怒声一つ上げられない、そんな可愛い魔力に絡めとられるのが怖くて、あわててケツまくって敵前逃亡したってとこか。
飯を食わない女房ねぇ。
由美にしてみればさんざん男にモテてきたくせに23まで処女だなんてある意味変態だと常々思っていたけれど、やっぱりこいつ、妖怪変化の類だったのか。