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引っ越したばかりの部屋。

新しい木の香り。



コウは、どこか自慢げに言った。


「ホラ、あれがサンシャインビル。……まあ、小さいけど」


放たれたベランダの窓からは、湿り気を帯びた春の風がなだれこんできた。

あたしは、コウの隣に立って、彼が指さした先を見つめる。

ほのかに明るい住宅街の海のむこうに、ビルのてっぺんあたりで光る、小さな小さな赤いランプが見えた。


「さむい……」


「ああ、ゴメン」


子どもをあやすようなやさしい声を、いとも簡単にコウは出してみせる。

大丈夫と伝えながら、背伸びして、あたしはサンシャインビルの全貌をつかもうとする。


「ここからじゃ遠いね、サンシャイン」


あたしは、コウに同意しながら、近付いてくる彼の熱を肌で感じている。