定義はいらない

「何、飲む?」


メニューを見ると

私が普段行く安い居酒屋では見られないカクテルの名前ばかり。

ジンベースやウォッカベースくらいしか分からない私は

人気のアメリカドラマで主人公が飲んでいたカクテルを見つけて

さらにテンションが上がった。


「コスモポリタン」

「俺はコーラでいいや」


内心、太朗先生が飲まないことに

半分驚き、半分がっかりした。


「飲まないことに慣れちゃったんだよね。
 いつ呼ばれるか分からないからさ。」


これだから医者って可哀想だと思う。

いくら給料が良くても

プライベートまで束縛されてちゃ仕方ない。


「君は飲んでいいよ。」


「君」と呼ばれたことのない私は

一瞬、私のことか分からなくなる。

「君」が私のことだと理解するまで、

少なくとも0.3秒かかった。