定義はいらない

「ちょっと、杏子どうしたの?」

携帯に集中していた私は麻衣子の声で我に返った。

今は遥の婚約を祝う会だったことをすっかり忘れていた。

「ごめんごめん。ちょっとね。」

「ちょっと何?亮ちゃん?」

人差し指で千香につつかれる。

まだ亮ちゃんと別れたことを報告していなかった。


「別れたよ。」

「え?」

「いつ?」

矢継ぎ早の質問にちょっとイラッとする。

心の傷が開いていく。


「3週間前くらいかな。」

まともに3人の顔を見られなくて私はメニューを手に取った。

もう頼みたいものは何もない。

早く家に帰りたい。

気ばかりが急いた。


「聞いてないよ。」

遥が避難する。

今までは何でも報告し合っていた。

でもこれからはそういうわけにはいかない。

「うん。言ってないから。」

そう言ってメニューを置く。