定義はいらない

「今日、この後どう?」


この人は周りの視線とか噂とか気にならないのだろうか。


たしかにステーションのパソコンに向かっているのは

私と太朗先生だけで

他の先生も他の看護師もみんな帰っていた。

遠くに新人ドクターたちが何人か見えるけれど

こちらの声までは聞こえていないだろう。


「ご飯でも行く?」


亮ちゃんとまだ付き合っていた時、

太朗先生のことを話したことを思い出した。

「そういう人はさ、奥さんができても気にしないんだから、
 杏ちゃん気をつけなきゃダメだよ。」

と言われた。


ふん。もう関係ない。


「今日は疲れていてとてもそんな気になれません。
 また今度にしましょう。」


「今度ならいいんだ?」


そう言ってメモ用紙を手に取ると

彼はスラスラとアドレスを書いた。


「今夜、メール待ってるよ。」


そう言って彼は去って行った。


後に残された画面には今日の芸能ニュースが拓かれていた。