定義はいらない

太朗先生が連絡先をくれたのは

ナースステーションだった。



「随分遅くまで残ってるんだな。」

そう言って太朗先生が近寄って来た時

私はパソコンに向かっていた。

患者さんが転倒して私はその事故報告書を書いていた。


患者さんが転倒するのは大事なのだ。

病院内では。

ちょっと膝をついただけで医師に診察を依頼して

事故報告書を書かなければならない。


転倒されてしまっただけでも落ち込むのに

事故報告書はさらに追い打ちをかける。

『どうして起こったのか?』

正直、何て書いていいか分からない。


人は転ぶ時は転ぶ。


そこに理由なんてない。


「今日、竹内さんが転んでしまったので。」

「レポート書いてるんだ。」

「はい。」


そこが定位置でであるかのように私の隣の席に座り

おもむろにパソコンを開いた。