定義はいらない

「もしもし。」

「お疲れ様。」

私の緊張をよそに、松木先生の声は明るい。

「もしかして寝てた?」

「うん。でも大丈夫。」

「そうかそうか。すまんね。」

「いや、私が電話したいって言ったから。」

「で、なに?」

「なにって。」

私は言葉に詰まる。

「昨日の続きだけど。」

「あぁ。」

あぁって。
私はこんなに悩んでいるのに彼にとっては何でもないことなのか。

「それで?」

そうでもないみたいだ。松木先生の声にも少し緊張は走る。

「やっぱり私は言ってない。」

「それは分かったよ。」

「でも、長野に遊び行くとは確かに言ってた。
 だからそれが松木先生とつながって私の知らないところで
 噂になってたのかもしれない。」

「まぁ、今後は気をつけなよ。」

「……また会える?」

「今はそんな気分じゃない。」

涙が溢れる。

予想していた答えがそのまま返って来ただけなのに。