定義はいらない

「そりゃそうかもしれないけどさ。
 でも、調子にのって誰かに言ったんじゃないの?
 じゃなきゃこんなことになるわけないだろ。」

「思い当たるのは『長野に行く』とは言った。」

「どこで?」

「どこって、みんなに。」

「なんで?」

「なんでって。普通の会話でだよ。『長野の友達に会いに行く』って。
 お土産だって買って来たし。それだけ。」

「それだけでこんな噂になるか?」

「私には分からないよ。」

泣きたくなる。

私の太陽が今失われようとしている。

「俺は、真実が知りたい。」


『真実』という言葉を私はその時初めて人の口から発せられるのを聞いた。

『真実』ってなんだろうか。

『真実』ってなに?

私の『真実』は太朗ちゃんから始まる。

それも話さなきゃいけないのか。

あなたにそれを伝えた人は昔私と寝ていたし、私は彼が好きだった。

当直室で抱かれたし、松木先生が診察している影でキスもしていた。

それが急に途切れたから私はあなたに抱かれた。

でも、今はあなたのことをとても大事に想っている。

それが真実だ。

決して、私はあなたを傷つけようと思ったことはない。