そして太朗ちゃんは東京を去った。

奥さんは東京に残るらしい。

月30万のマンションはそのまま残して

私が行ったあの寮に太朗ちゃんは単身赴任だそうだ。


もう私には関係ない。


太朗ちゃんが長野の病院に赴任して3日後に松木先生からの電話が来た。


「太朗ちゃん、どう?」

「ん?まだ働き始めだからよく分からないけど、
 飛騨牛を一緒に食べに行ったよ。」

「食欲戻ってるじゃん。」

「どうだろね。おごってくれないし。」

「いいじゃん、どうせ松木先生の方が自由になるお金はあるんだし。」

「まぁな、太朗は養育費も東京のマンション代も払ってるんだもんな。
 ほんと、金ないんだろうな。可哀想。」

相変わらずの松木節炸裂。

もう慣れた。

「まぁ、元の体重に戻るまで付き合ってあげなよ。」

「そうだね。」

「そう言えば来月に医局旅行があるんでしょ?」

「そうそう。なんと諏訪。」

「近くじゃん。」

「行かなきゃだよなぁー。めんどくさい。」

「太朗ちゃんが赴任したから長野なわけ?」

「さあね。そうかも。」

毎年医局の医師たちが全国の、

と言っても近場の温泉地に一泊旅行するイベントがある。

若手の医局員が出し物をするのだ。

ほんとにくだらないイベント。