定義はいらない

夜の松本駅を通り過ぎて車はどんどん山の方へ近づいて行く。

電灯もあまりない。

東京が明る過ぎると私は思う。

朝は明るく、夜は暗い。

それが自然というものだ。

「松本に住みたいですね。」

「へぇ。田舎だよ。」

「これくらいの田舎がいいんです。」

「来ちゃえばいいのに。
 看護師は就職口なんてどこにでもあるんだからさ。」

私が来年にでも長野に来たとしても、自分は東京に帰って来てるくせして。

「この大きい川は何て川ですか?」

「梓川ですよ。」

運転席のおじさんが答える。

「あの上高地の方から流れている梓川ですか?」

「そうです。」

「へぇ。明るかったら良かったのに。」

「槍ヶ岳から流れてくるんですよ。」

「へぇ。」

松木先生は話にのってこない。

興味がないようだ。

「だって。」

そう言って先生の腕をつつく。

「興味ないでしょ。」

「うん。」

少し眠そうだ。


ふいに手を繋がれる。

暖かい。

抵抗も抗弁もせずに手を握り返した。