定義はいらない

「杏子は知ってたの?」

「知らなかったよ。」

「へぇ~。」

「私こそ、佐々山先生から聞いてたことに『へぇ~』だよ。」

「あっそろそろ寝なきゃ。じゃ、おやすみ。」


痛いところをつかれたのか、

イソギンチャクの間に逃げ込むカクレクマノミのように

さっと身を隠してまどかは電話を切った。


私はちょっと茫然として

立ち上がり

携帯を充電器に挿して

冷蔵庫に向かい

ワインを1本半空けた。


涙がボロボロ零れて

睡眠薬を飲んで

それでも眠れなくて

朝を迎えた。


私はどうやらやっぱり一人らしい。

また、一人になるらしい。