定義はいらない

コース料理は次々来る。

コロンビア号の夕食は雰囲気だけでも満足できる。

本当に船のラウンジにいるようだ。


料理を食べている間、遥は私に遠慮してか

なかなか結婚式の準備について口に出さなかった。

けれど、お酒が進むにつれて

彼女の口は緩んだ。

思い詰めたように彼女は口を割る。


「私、教会で式を挙げようと思ってるの。」

「そう。」

「あのね、カトリックの教会なの。」

そう言えば、彼女の両親はカトリックの信者だった。

普通、カトリック教会での結婚式は信者しか受け付けないが

親族に信者がいれば挙げられるはずだ。

「それでね、結婚の証人がいるんだけどね。
 杏子になってもらえないかな?」

「嫌だよ。」

我ながらびっくりするくらいの即答。

「遥、お姉ちゃんいるじゃん。お姉ちゃんにやってもらいなよ。」

「なんか、姉妹じゃダメだって言われてね。」

絶対、嘘。

そんなことあるわけないじゃないか。

「私も結婚は一つの人生の区切りだから。杏子に頼みたいなって思って。」

勝手なこと言ってくれる。

たとえ彼女にとってはそうでも、それは私には関係ない。