何人かの指名を受けたあと
なんだか玄関側が騒がしい……。

「なに?なんかあったの?」

目を丸くする客。

こういうことは珍しくないが
噂のタネになるのは耐えられない。

「あたし、ちょっと見てくる…。」

堪りかねて様子を見に行くとそこには
傷だらけでぼろぼろになった龍弥が居た。

「……龍弥………。」

私に気づいた龍弥は何もなかったように
去って行った…。

私に向いてる視線が痛かった。

「ごめんなさい。私の兄です」

まさか彼氏だなんて言えるはずもない…
本当のことを知ってるのは店長と私だけ。

私は深い溜め息を吐いて席に戻った。

「美咲ちゃんも大変だねぇ、あんな兄貴をもって…
妹に苦労かける兄貴なんかいらないよねぇ?
おじさん、片付けてあげようか?」

怪しい笑みを浮かべる客―。

「え……?片付けるって…」

「本当は解ってるでしょ?大丈夫、美咲ちゃんには
何もしないし迷惑はかけないようにするから。」

太股をすりすりして見つめてくる目は虚ろ。

「……あ…の、もうすぐチェンジの時間だから。」

咄嗟に出た言葉。
様子に気付いた店長が他の女の子を席に
まわしてくれた。

気にくわない顔をしていたけど
そこは店長の気遣いに甘えさせてもらった。

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「お疲れ様でしたぁ〜」

「美咲姉さんまた明日ね。」

夜も明けてきた頃、店長と店を閉めて
さっきの話を聞いた。

店長の話によると私に会わせろとしつこく
迫ってきたらしい…

今は指名が入っていると断ったが
金が必要だと喚きちらし殴りかかってきたり…
かなり切羽詰まった様子声を荒げていたようだ。

そこに運良く通りかかった私の友達の
透也がお金を渡したらしい。

話を聞き終えた私はなんだか情けなくて
深い溜め息を吐いた。

「まぁ、美咲は気にすることないよ。
こんな仕事に揉め事は憑き物だしね。
今日は早く帰って休みな。」

店長は苦笑して私の前に店の鍵を置いて出ていった。

店長は男の割には細かい気遣いができる人で
誰からも信頼されていて
何度も助けられて……

店長にはほんと感謝してる。