「慶志朗、頭をおあげになって。

 父上さまが勝手にお決めになられた婚約ですもの、

 わたくしたちが納得して、解消してもよろしくてよ。


 祐雫さんとおっしゃったかしら。

 彼女が現れてから、慶志朗は、変ったわ。

 世間並の甘い恋がしたくなったのかしら。


 何はともあれ、ありがとう、慶志朗。

 今までとても楽しい時間でしたわ」


 麗華の視界は、真っ白になって、

慶志朗の神妙な顔だけが視界に広がっていた。


 今まで、自由奔放な気持ちで、

慶志朗と交際してきたつもりだった。


 通常、良家の結婚は、計略的なので、

家柄も学歴も容姿も申し分のない慶志朗が

当然自分に相応しい許婚だと考えていた。


「麗華さん、お邸まで送って行きます。

 そして、ご両親にお詫びを申し上げます」


 今宵の慶志朗は、飄々(ひょうひょう)としたいつもらしさがなく、

ただ平謝りに麗華に頭を下げていた。