夕刻、慶志朗は、桜川駅で、祐雫を車から降ろした。

 祐雫は、笑顔で慶志朗に手を振る。





 慶志朗の車が見えなくなると、大粒の涙が溢れてきた。

 静かな涙だった。

 



 祐雫は、涙を流しながら、桜川沿いの道を桜河のお屋敷へと帰っていく。

 夕焼けが哀しみに包まれた祐雫を照らしていた。



 

 お屋敷の門を入ると、祐雫は、涙を拭う。



 そして、桜の樹の下へと向かった。


(桜さん、淋しい時には、祐雫を支えてくださいませ)


 祐雫は、桜の幹に両手を回す。





 桜の樹は、祐雫の淋しさを吸収して、自然の活力を祐雫に贈る。


 祐雫は、少しずつ少しずつ、淋しさが和らいでくるように感じていた。



(桜さん、ありがとうございます。 祐雫は、前を向いて進んで行きます)

 


 祐里は、窓辺から、愛しい祐雫の背中をそっと見つめていた。