「この樹は何かしら」
麗華は、木陰を作っている新緑の樹を見上げた。
「桜にございます」
祐雫は、即座に答える。
「まぁ、桜なの。
桜は花の時期が終わると緑に紛れてわからなくなるわ」
そよ風が緑の桜葉を揺らした。
新緑の木洩れ日が祐雫に集まる。
「本日の麗華さまは、少しお淋しそうにございますね。
琳子さまとご一緒ではないからでしょうか」
桜の緑光を浴びた祐雫は、自分らしさを取り戻していた。
「そう」
琳子は、慶志朗から別れを告げられたすぐ後に見合いをして、
来春結婚を決めていた。
それを思うと琳子の潔(いさぎよ)さと順応力が羨ましくもあった。
その時、琳子は
『わたくしは、第二許嫁でございましたので、
覚悟はできてございました。
慶志朗さまと麗華さまとご一緒させていただく
お時間がとても楽しゅうございましたので、
その想い出だけで充分にございます。
麗華さまもご自身の進むべき道を早く見つけられますよう
お祈り申し上げます』
と助言してくれたのだった。

