――…ゅん…!


「……」



帰り道、ずっとポケットに突っ込んだままだった手を出して、

エントランスに入ろうとガラスの扉に手をかけた時だった。




「…今……」


かすかではあったが、確かにくしゃみのような音が聞こえた。


それも可愛らしい、女の子がするようなくしゃみだった気がする。



俺は辺りを見回した。




この近辺は外灯が少ないため、夜11時頃にはもうほとんど人影がない。


ましてや女の子なんて、わざわざこんなとこに近づかないだろう。



実際、俺の住むこのマンションの住人もほとんどが男性で、女性の入居者は2人。


でも1人は彼氏と同棲中。

もう1人は旦那と子供がいる30代。


この時間帯に外で見かけたことはあったけど、どちらも相手が一緒だった。




俺はもう一度辺りを見回してみた。

「…あのー…誰かいるんですかー?」


そう言ってみたものの、返事はない。



「…聞き間違えたのかな…。」


確かに聞こえたはずなのになぁ…と、まだ疑問には思いつつも、寒さに負けた俺は再び扉に手をかけた。