今夜だけの我慢だ。
明日になれば千里もきっと自分から出ていくだろう。
だから今夜だけは、ソファで我慢しよう。
そう自分に言い聞かせて、クローゼットから毛布を取り出し、電気を消してからソファに横になった。
つうか結局俺、千里からほとんどなんも聞いてなくね?
なんか、うまくかわされてしまった気が…。
そんなことを考えながらうとうとしていた時だった。
「ありがとう…」
本当に小さな声で、そう聞こえた。
「え?」
もちろん声の主は千里なわけで、俺は上半身だけ起こしてベットの方を見つめた。
千里は相変わらず俺に背中を向けてるが、布団から頭は出していた。
「あたし、初めてだった。あんな風に怒られたの…。」
「う、うん…。」
「あたしね、今まで男の家を渡り歩いて生活してたの。住まわせてもらう代わりはもちろん、あたしの体…。13の頃から、今までずっとね…。」
「13から…。」
なぜ、そこまでして?
そんなに家に帰りたくなかったのだろうか…。
「だからびっくりした。仁みたいに怒る男がいるなんて、信じられなかった。」
「そう?」
「そうだよ。…すごい、嬉しかった…。」
